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上廣・カーネギー・オックスフォード倫理会議 2011


カーネギー上廣フェロー 蛭田 圭 報告

概要
 「正しいこととは何か?」という問いとは別に、「人が正しい(と考える)ことをするのはなぜか?」、また「人がすべきではない(と考える)ことをしないのはなぜか?」という問いが、倫理学の根本問題にある。例えば、一人では達成できない公共善のために他者と協力することや、自分自身の利害が損なわれるリスクを負ってでも他者の生命や自由を守るために行動することは、人が持つさまざまな性向の組み合わせによって初めて可能になる。倫理学にとってのひとつの問いは、これらの道徳的性向にはどのようなものがあり、それらがどのように涵養され、発露されるかを解明することにある。
 近年、社会心理学、進化生物学や脳科学といった諸学問の発展と共に、学校教育や法の整備といった、環境改善を通じた働きかけが人の道徳的性向にどのような影響を及ぼすかが、より実証的に解明されつつある。また、生活習慣の分析やさまざまな実験を通じ、人の道徳的性向が医学的・生物学的働きかけを通じて直接影響を受けることも、明らかになってきている。これらの研究成果が意味するのは、人の道徳的性向を大幅にコントロールできる技術が、遠くない将来に手に入るかもしれないということである。
 しかしそのような可能性が開かれることは良いことなのだろうか?仮に「人をより道徳的にする錠剤」が手に入るとしたら、私たちはそれを飲むべきなのだろうか?そのような錠剤は、本人の合意の上であれば、矯正施設などで処方されても良いのだろか?あるいは逆に、もしそのような錠剤を開発・製造するのは禁止されるべきだと私たちが考えるとしたら、どのような理由が挙げられるのだろうか?今年度の会議では、科学分野での最新の研究成果のレポートとともに、それが人間の本性と社会にとって含意することについて、考察を試みた。

会議要約
 第一セッションでは、道徳心理学の科学サイドの研究動向が3人の論者によって報告された。カヘーン博士が過去数十年間の研究成果を概観したあと、ハイト、クシュマン両博士が最新の実験結果とその含意について議論した。ハイト氏によれば、異なる社会に見出される道徳の多様性は、いくつかの基本的な価値の別々の組み合わせとして考えることができる。この考えにある程度共鳴しつつ、クシュマン氏は、「他者に危害を加えたくない」という人間の基本的な欲求をどのように考えるべきかを、最新の実証データを示しながら議論した。
 続く3つのセッションでは、議論がより哲学的な方向へとシフトし、2つの問題群に収斂していった。ひとつは、人が道徳的にふるまう能力を高める方法として、教育、立法、社会制度の整備といった従来の手段がどの程度有効なのか、という問いである。東日本大震災後の医療関係者の行動と規範を分析した赤林教授と、戦争下での人の振る舞いに焦点を当てたグラヴァー教授は、従来の手法が改善されることがまず第一だという立場を取った。それに対し、サヴレスキュ、イングマー両博士の共同発表では、従来の手法と並び、医学を応用した新たな介入方法を模索すべきだとの考えが提起された。また、ダグラス博士、デグラジア教授は、両立場へのさまざまな批判を考慮し、そのうちのいくつかが合理的根拠を欠くものだと指摘した。
 第二に、これら道徳心理学的な議題が、道徳哲学のより基本的・伝統的な問題とどのように関係付けられるべきかが議論された。プリンツ教授の報告では、道徳がアイデンティティ構成について果たす役割が考察され、森岡教授の発表では、「幸せだという感覚」と人間の尊厳の違いがどこにあるかが論じられた。またレイルトン博士は、人が道徳的判断を下す際に参照する「直観」について心理学的・哲学的に考察し、ワサーマン教授は道徳を「向上させること」とはどういうことか(「エンハンスすること」とどう違うか)について論じた。
 会議を締め括る記念講演では、DNA螺旋構造の解明者の一人として知られるジェームズ・ワトソン博士が、近年の生命医療研究、遺伝学の発展についての見解を示しながら、科学的探究が倫理的・政治的な問題を惹起する場合について、豊富な事例を引きながら議論した。
 今年度の会議は本分野での世界初の本格的な国際会議で、新領域を拓く第一線の研究者たちにより活発な議論が交わされた。例年以上に高い専門性の会議となり、休憩時間も惜しみながら、参加者たちは熱心に意見を交換していた。(2011年11月19日)



 

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