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  第10回東西哲学者会議

 

上廣・カーネギー・オックスフォード倫理会議 2010          (English)


「情報倫理:ヒューマニティの未来」

  • 期日:2010年12月8日(水)、9日(木) 
  • 場所:オックスフォード大学セント・クロス・カレッジ(英国)

東京大学大学院客員研究員 竹之内禎博士 報告

【会議概要】
 2010年12月8日(水)・9日(木)の両日に、英国オックスフォード大学セントクロス・カレッジにて、上廣・カーネギー・オックスフォード会議「情報倫理:ヒューマニティの未来」が開催された。この分野で国際的に議論をリードしている専門家たちが集い、情報と技術、法律、倫理、社会との関係を議論する場となった。
 1日目、オックスフォード上廣プラクティカル・エシックス・センター所長のジュリアン・サヴァレスキュ教授が開会の辞にて上廣倫理財団とセンターの活動紹介を行い、本会議の開催経緯を述べた。プログラムの最初に、東京大学の西垣通教授から「ロボットとの共生社会は可能か?」と題する基調講演がなされた。情報検索のプロセスにはコンピュータによる機械的な操作が組み込まれており、やがて人工知能ロボットが人間の思考を代替するという意見さえもある中で、介護や家事を行うロボット、一緒に遊ぶための娯楽用ロボットなど、近未来に人間とロボットの共生社会が生まれうるか、という問題提示がなされ、こうした観点からロボット倫理を考えることは21世紀の情報倫理・ヒューマニティを考察するための主要な課題の一つであることが示された。また、フランスのロボット研究者であるフレデリック・カプランの議論を引きながら、西洋ではフランケンシュタインのモンスター、日本では鉄腕アトムというように、西洋と日本とでは、ロボットに対する意識が全く異なること、それは万物を秩序づけ、ロボットのような人工物と自然とをはっきり区別する西洋文明のユダヤ=キリスト教的一神教の伝統と、日本のアニミズム的宗教観との違いが一因であることが指摘された。また、茶道において「人間の関与が自然の調和を完成させる」という思想があることに言及し、日本の伝統文化においては、人間と自然との境界線は明瞭ではなく、人工物もまた自然の一部であるとみなし得る傾向性があることを論じた。その上で、こうした日本文化が人間とロボットとの共生関係を生まれやすくする一方、人間を機械と同等視する思考に陥りやすい危険もあると指摘した。人工的な情報処理によって機能するロボットが真にヒューマンなものとなるかどうかは、人間と機械の自律性の捉え方が鍵となることが結論として示された。
 続いて、個別報告とディスカッションが行われた。まず、ベルリン・シュタインバイス大学情報倫理研究所所長のラファエル・カプーロ教授が、「ヒューマニズムを超えて」と題する報告を行った。西洋における過去のヒューマニズム論は、どれも形而上学的な議論であり、個々の人間の生き様の現実に目を向けるよりも、人間一般の本質を超越的な視点で規定しようとしてきたものと批判した。また、現代の「ポストヒューマン」「脱・人間」の議論については、科学技術によって現在の人間よりも強い人間を作ろうとしている考えにつながる、一元的な人間中心主義の強化バージョンであると批判した。現代のメッセージ社会において、人々はコミュニケーションでグローバルにつながると同時に、それぞれの個性、文化的特性を備えた存在でもあり続ける。そのような観点から、多元的・多面的なヒューマニティを考えるためには、人間を捉える際の視点として「as(~として)」という要素を考慮する必要がある、という点が強調された。英国ランカスター大学のルーカス・イントローナ教授は、「バーチャルな他人:仮想性と倫理の未来」という報告の中で、レヴィナスの「人間は他者への責任を持つ」という倫理思想に基づいて、インターネットを通じて見知らぬ他人と出会う機会の多くなった現在、そうした見知らぬ他者にどう対応するべきか、という問題提起を行った。
 1日目の午後には、まず、ウィスコンシン・ミルウォーキー大学情報学部長のヨハネス・ブリッツ教授が「情報弱者に関する倫理的課題」と題して、開発経済学的な観点からアフリカの情報格差の問題を報告した。南アフリカ共和国籍を持つ研究者としての立場から、アフリカの研究者たちは国外で研究交流をすること自体にも制限があり、欧米の研究者と比してハードルを伴うという研究上の悪循環についても指摘がなされた。また、アフリカの情報弱者に関する現状把握のモデルが提示され、どのような形でアフリカの情報格差を小さくしていけるか、という問題提起がなされた。ウィーン工科大学のヴォルフガング・ホーフキルヒナー教授からは、「持続可能性と自己組織性:複雑性とシステム科学から見た持続可能性と倫理的考察」として、情報のフィードバック機能を中心としたシステム理論からの倫理問題の考察が行われた。「自己組織(非物質を含む自然界)」、「オートポイエーシス(生命体)」、「人間」という自律的システムの発展段階をふまえ、持続可能性のモデルが示された。これに対し、ディスカッションでは「システム理論は変化のダイナミズムを捉え切れないのではないか」という疑念が出され、「本報告の内容は長期的な射程であって、システム理論は変化を内包した長期的安定系の理論として有効性がある」等の議論が交わされた。オックスフォード上廣センター・リサーチフェローのアンダース・サンドバーグ博士は「ファジーな脳:拡張された心、神経のインターフェイス、集合知」と題して、神経系をコンピュータでモデル化しようとするニューロコンピューティングの観点から、技術的な補助によって人間の認識能力を高め、集合知にまで発展させる可能性について、最先端の実験・研究成果の報告がなされた。1日目の最後の報告として、経済協力開発機構情報・コンピュータ・通信政策委員会(ICCP)情報セキュリティ・プライバシー作業部会(WPISP)副議長・日本代表を務める慶應義塾大学の新保史生博士から「ライフログとプライバシー」と題する報告がなされた。コンピュータ上に蓄積される個人の記録を「ライフログ」という概念にまとめ、これまで漠然としたイメージで捉えられてきたライフログの範囲を明確化した上で、技術的・制度的課題、個人情報の取り扱いと法的義務、日本の総務省ライフログ研究会による配慮原則、米国の連邦取引委員会や業界団体による行動ターゲティング広告原則など、ライフログの取り扱いに関わる検討課題および現在に至るまでの検討状況を概観し、私生活の暴露や誤情報の取り扱いをめぐる過去の裁判例をもとに、ライフログの取り扱いにあたっての法的な責任の在り方が提言された。
 1日目の夕刻には、セントクロス・カレッジにて、オックスフォード大学アンドリュー・ハミルトン総長主催のレセプションが行われた。ハミルトン総長のスピーチにおいては、オックスフォード上廣プラクティカル・エシックス・センターの活動成果を讃える言葉とともに、出資者である上廣倫理財団に対する感謝の意が示された。また、本会議の共催者であるカーネギー・カウンシル、会議の企画者たちに対しても謝意が述べられた。続いて、上廣倫理財団事務局長のカーネギー・カウンシル理事長ジョエル・ローゼンタール博士のスピーチが行われ、関係者への謝意と、会議への期待が述べられた。

 2日目は、まずオックスフォード大学のデイヴィッド・エルドス博士から「データ保護は個人に関する情報倫理の適切な枠組みを提供できるか」という報告がなされた。個人情報の倫理的使用を促進するための枠組みとして、データ保護の法的取り組みを有用なものとみなしてきた推進者に対し、英国でデータ保護を推進したヤンガー委員会の作成した倫理コード等を例に挙げ、そうした現在のヨーロッパのデータ保護の考え方は断片的、規範的で型にはまりすぎ、官僚主義的な仕組みになってしまっており、異なる価値観の間のバランスを取ることを不適切に制限するものとなっている、との批判がなされた。オックスフォード大学インターネット研究所所長のウィリアム・ダットン博士からは、「ネット上でのモラル・パニック」と題し、近年の英国におけるインターネットの利用に関する各種統計データの紹介がなされた。その解釈については、参加者からは報告者とは異なる見解も出され、ディスカッションで多様な意見が交わされた。
 2日目の午後には、東京大学の竹之内禎博士から「情報から見たヒューマニティと自由」と題する報告がなされた。まず、人間が「制約を受けながらの自由」という状況に常に置かれているというヴィクトール・フランクルの議論に着目し、これをヒューマニティ論の基礎と見なした。ただし、フランクルは個人の精神の自由を強調し、社会の次元における自由という議論は少ないため、そのエッセンスを21世紀のヒューマニティ論に生かすには基礎情報学の包含的な情報の概念や、HACS(階層的自律コミュニケーションシステム)の概念から捉え直すことが有効であることを示し、フランクル思想の補完的再定位を図った。また、その応用として「情報の自由」という切り口から21世紀型のヒューマニティ論への手がかりを考察した。2日目の最後の報告として、ニューヨーク大学のヘレン・ニッセンバウム教授が、「状況別のプライバシー尊重は倫理相対主義を保証するか」と題する報告を行った。異なる社会、文化、状況、規範、行為者、情報の種類、伝達方式を考慮し、道徳的価値はそうした状況に左右されるという考えを基に、プライバシーの考え方について自身の見解が述べられた。

■2009年度の会議報告
■2008年度の会議報告

   

2010 Uehiro/Carnegie/Oxford Conference
Wednesday 8th and Thursday 9th December 2010

Information Ethics: Future of Humanities



WEDNESDAY 8 DECEMBER

OPENING REMARKS
9.00 a.m. Professor Julian Savulescu (Director, Oxford Uehiro Centre for Practical Ethics)

KEYNOTE SPEECH
9.30 a.m. "Is the Society of Cohabitation with Robots Possible?"
Professor Toru Nishigaki (The University of Tokyo)

FIRST SPEAKER SESSION
10.30 a.m. "Beyond Humanisms"
Professor Rafael Capurro (Steinbeis University Berlin)
11.15 a.m. Discussion

11.30 a.m. "The Virtual Other: Thinking about Virtuality and the Future of Ethics"
Professor Lucas Introna (Lancaster University)
12.15 p.m. Discussion


SECOND SPEAKER SESSION
1.30 p.m. "Ethical challenges of information poverty"
Professor Johannes Britz (University of Wisconsin-Milwaukee)
2.15 p.m. Discussion

2.30 p.m. "Sustainability and Self-organization: Sustainability Seen in the Perspective of Complexity and Systems Science and Ethical Considerations"
Professor Wolfgang Hofkirchner (Vienna University of Technology)
3.15 p.m. Discussion


THIRD SPEAKER SESSION
3.45 p.m.
Dr Anders Sandberg (Research Fellow, Oxford Uehiro Centre)

4.15 p.m. Discussion

4.30 p.m. "Life-Log and Privacy"
Dr. Fumio Shimpo (Keio University)
5.30 p.m. Discussion

6.30 p.m. Reception and Dinner to follow at St. Cross College hosted by
The Vice-Chancellor, Professor Andrew Hamilton
Speeches: The Vice-Chancellor,
Dr. Maruyama, Secretary General, The Uehiro Foundation
Dr. Rosenthal, President, The Carnegie Council


THURSDAY 9 DECEMBER

FOURTH SPEAKER SESSION
10.00 a.m. "Data Protection: An Appropriate Framework for Personal Information Ethics?"
Dr. David Erdos (University of Oxford)
10.45 a.m. Discussion

11.00 a.m. "Moral Panics over the Internet"
Dr. William H. Dutton (University of Oxford)
11.45 a.m. Discussion


FIFTH SPEAKER SESSION
1.00 p.m. "Humanity and Freedom from the Viewpoint of Information"
Dr. Tadashi Takenouchi (The University of Tokyo)
1.45 p.m. Discussion

2.00 p.m. "Does Privacy in Context endorse Moral Relativism?"
Professor Helen Nissenbaum (New York University)
2:45 p.m. Discussion

3.00 p.m. CLOSING ADDRESS
Mr. Hisateru Onozuka (Director, Uehiro Foundation)




 

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