2007(平成19 )年度、東京大学大学院人文社会系研究科に、
上廣倫理財団からの寄付を受け、上廣死生学講座が設置されました。
現在は上廣死生学・応用倫理講座として第4期の活動が行われています。

特任教授
会田 薫子
特任教授 会田 薫子
Q1. 「死生学」という学問にはどのような特徴があるのでしょうか。
A.

死生学は、単に「死について」考える学問ではありません。死ぬことと、生きることを一体として捉え、
人間が死と生をどのように理解し、どのように対処してきたのかについて、人文社会学の知を通して、広く考察していくものです。死生学の魅力の1つは、すべての人が有限の時間を生きていると認識することによって、自分がよりよく生きることと、自分の大切な人によりよく生きてもらおうとすること、これらの志向を明確化することにあります。

Q2. 上廣死生学・応用倫理講座では、死生学を通して、どのような活動をされていますか。
A.

当講座は、死生学の中核領域である臨床死生学の研究と実践活動を軸にしております。臨床死生学は臨床の現場で実践の知としてはたらく学問です。医療機関や介護施設、在宅医療・介護の場などの医療とケアの現場において、患者さんや施設利用者さんとその家族等および医療とケアに携わる人々のニーズに応え、死生学が得た知見を医療とケアに活かすことができるようなかたちにして提供しようとしています。
また、当講座はもう1つの柱として臨床倫理学に取り組んでおり、臨床倫理の知見を現場における死生学、つまり臨床死生学の諸課題に活かそうとしています。この2つの学問領域が交差する領域における研究と実践活動の展開は国内では唯一だと思います。現場主義の立場で思考することによって、地に足の着いた、実践的で有意義な研究知見の社会還元が可能になると考えています。

特任准教授
早川 正祐
特任准教授 早川 正祐
Q1. 具体的な取り組みをご紹介ください。
A.

まず、臨床倫理プロジェクトがあります。臨床倫理の中核的な役割は、一人一人の患者さんや施設利用者さんのために、治療法などの意思決定を支援することにあります。そこで意思決定支援に当たる医療・ケア従事者を対象として、意思決定プロセスの「情報共有-合意」モデルについて基本的な考え方をレクチャーしながら、ご本人や家族等にどのように対応し対話していくのかということについて、全国でセミナーを開催してきています。
この「情報共有-合意」モデルは、当講座の初代特任教授の清水哲郎先生が中心となって、国内の医療・ケア従事者と30年余にわたる共同によって開発してきたものです。これは日本で独自に開発された共同意思決定(shared decision-making: SDM)モデルです。
SDMをはじめ英語圏の臨床倫理もありますが、治療やケアをめぐる意思決定のあり方は社会的文化的な文脈に依存するため、日本で開発された方法論が重要になります。これまで医療倫理や生命倫理など生命に関わる応用倫理の諸学問は西洋からの輸入翻訳が中心でしたが、日本の文化的な文脈を大切にする独自の方法論が必要とされていると感じています。今後、私たちはこの領域で独自の研究知見を一層蓄積できればと思っています。
また、研究知見の共有の場として、「臨床死生学・倫理学研究会」(10回/年)や「死生学セミナー」(1回/年)、「人生の最終段階における医療とケア(エンドオブライフ・ケア)に関するシンポジウム」(1回/年)なども行っています。これらはリモート開催しておりますので、全国どこからでもアクセスして頂くことができ、死生学の諸課題を学び、現場で活かして頂くことができます。

Q2. セミナーはコロナ禍のなかで、実施方法が変わりましたか?
A.

そうですね。コロナ禍のなか、対面の研修会が実施できなくなり、また、多くの医療・ケア従事者は平時よりも一層多忙となりましたので、個々の医療・ケア従事者が自分のスケジュールに合わせて自習したり、小規模な院内研修会を実施したりすることを支援するために、2020年に臨床倫理とケアの倫理のe-learningコンテンツを作成し、ウェブサイトで公開しました。
 さらに、2022年には臨床倫理の基本テキストとして『臨床倫理の考え方と実践 ― 医療・ケアチームのための事例検討法』(東京大学出版会)を刊行し、学習のための基本的な資料を提供しました。
セミナーや研究会、シンポジウム等はその後もリモート開催を中心として、全国各地からより多くの方に勉強の機会を得て頂けるようにしています。その意味では、コロナ禍がリモート開催への転換点となったといえます。

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